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この夏最大級の祭り「HiGH&LOW〜琥珀&九十九編〜」

 

「なんでなんだよ琥珀さん……!命大事にしろって言ったのあんたじゃねぇかよ!」

 

 HiGH&LOWの世界を語るのに無視できない男たちがいる。全ての始まりとなったMUGEN、その初期メンバーである琥珀と龍也、そして九十九だ。映画からこの世界に入った私にとって最初は「ラスト周辺で盛り下がるなあ……」としか思っていなかったこの三人のエピソード。あの頃の私はまだこの男たちが背負う業の深さを何一つ分かっていなかった。

 

 まずは「琥珀」という男について考えてみる。本名は「美浦龍臣」という。幼少期にいじめられていた所を龍也に助けられてから親友となったというエピソードがあるように、元々は気弱な部分もある少年だった。それがMUGENという大きなチームを率いるような男になったのは偏に龍也の存在があったからだ。喧嘩もバイクも、龍也に引っ張られるように始めた。中学の頃には体格も力も龍也を超えており、いつしか周囲は龍也よりも琥珀を恐れるようになっていたが、琥珀は常に龍也の後を追っていた。

 琥珀が仲間を大切にするのは龍也がそうしていたから。弱いものに手を差し伸べるは自分が龍也にそうしてもらったから。生まれながらに人を惹き付ける魅力を持ちカリスマ性があるのは龍也だった。琥珀は腕っ節の強さで人を支配することはできるが、人間としての器は決して大きくない。足りない部分は全て自然に龍也の真似をして補っていた。だが周囲には琥珀の方こそMUGENそのものに見えた。二人が並べば誰だって力を持っているのは琥珀の方だと思う。そしてそういった扱いを受け続けた結果、琥珀自身も「龍也の幼なじみの龍臣」ではなく「MUGENの琥珀」としての自分を強く意識して生きるようになっていった。

 龍也にとってMUGENは琥珀との遊びの延長のようなものだった。人数が増えても、誰かをリーダーとしないことで単なるバイク好きの集まりとしようとした。リーダーを作らないのは仲間を平等とすること以外に、厄介なトラブルを引き込まないようにする龍也の考えがあったからだ。だが琥珀を代表として血気盛んなメンバーは地元愛の強さと相まって何かとトラブルに巻き込まれては喧嘩をして敵を増やした。そこはヤンキーの習性だから仕方がない。MUGENが出来る前ならば個人のトラブルで済んだが、だんだんとそうも言っていられなくなってきた。龍也が潮時だと思ったのはその頃だったかもしれないが、それは琥珀にとっては逆だった。仲間がトラブルに巻き込まれるなら助けてやらなければいけない、MUGENの創設者として、それが筋ってものだ。MUGENは仲間を見捨てねぇ。仲間を思う気持ちは龍也も琥珀も同じだが、守るための方向性が変わってきてしまっていた。

 そんなすれ違いが続き、ついに龍也はMUGENを抜けるという大きな決断をする。龍也にとってMUGENはただの名前だったが、琥珀にとっては仲間そのものを表すものになっていた。「MUGENやめたってなにも変わらねぇよ」というのは龍也の本心だった。だから龍也はMUGENに変わるものを作ろうと「ITOKAN」を開く事に決めた。一斗缶のように温かい場所を作りたい(?)という気持ちを込めて。気の合う仲間が集まる場所があればそれはどこだっていい、名前が消えても自分たちが親友だという事実は消えない。龍也はそう考えていたが、琥珀はそうは思わなかった。琥珀は常に自分の前にいた龍也を失ってしまったと思った。そうして、もう龍也の真似ではなく自分なりの方法で仲間を守らなければいけないと自分自身で作り出した荷物を背負ってしまった。

 そうしてこの悲劇は琥珀の決断が招いた龍也の死という最悪の形で幕を下ろしてしまう。これが簡単であるが琥珀と龍也という二人の男の一つのエピソードである。この二人に大きく絡んでくるもう一人の男が、シーズン2でMUGENへの加入エピソードが語られる鷹村九十九だ。初めて映画で見たときは琥珀にとって九十九がどういった存在なのか全く分からなかった。回想シーンでなんとなく琥珀に恩義を感じているんだな、ということは分かったがドラマを見てからもう一度映画を見たらそんな単純なものではなかった。

 次は「鷹村九十九」または「九十九にとっての琥珀琥珀にとっての九十九」について考える。九十九は身寄りがなく一匹狼で誰彼構わず喧嘩を売っていたという設定になっている。趣味はナンパという点を深読みすると、自分の外見という長所を最大限に活かしてその日暮らしを支える女をとっかえひっかえしていた可能性がある。九十九は親からの愛を受けずに育った子供であり、親は死んだのではなくネグレクトのため行政の手によって引き離されたという個人的な設定をここでは当然として話を進める。九十九は「あんたなんて生まれてこなければよかった」と言われて育った。だから自分が誰かから愛されることはないと思っているし、愛を知らないから誰も愛さない。そんな男だった。

 だかそんな九十九の前に一人の男が現れる。それが琥珀だった。琥珀は九十九とは逆に親からの愛情や友からの友情など、人の情を受けて育っておりそれの大切さもよく知る男であった。琥珀は自分の情を誰かに向けることに抵抗がないどころか積極的だった。だから野良犬ではなく捨て犬のような九十九を見てすぐにこの男を救いたいと思ったのかもしれない。琥珀が九十九に向けた態度や言葉は恐らくかつて龍也から向けられたものだったのだろう。自分も龍也の様に誰かの力になれる、それを初めて誰かに対して実戦したのが九十九であり、実際めちゃくちゃ効果を発揮した。Mariaに例えられるくらい。

 Mariaに例えるのはやり過ぎだと思わなくもないが、実際バイク乗りが友人でもない赤の他人の治療費のために自分のバイクを売り払うというのは普通ではない。人の愛情を知らずに育った九十九にとってそれは人生で初めて確かに形を持って与えられた「情」だった。そう考えると九十九にとって琥珀が聖人のように見えたとしてもおかしくはない。その瞬間、琥珀は九十九にとってのMariaだった。

 琥珀を追いかけてMUGENに入った九十九は、そこで初めて自分の聖人にもまたそう思っている存在がいることを知る。琥珀をよく見ている九十九だからこそ、琥珀にとっての龍也がただの友人以上であることは間違いないと分かったはずだ。そして、龍也がMUGENを抜けると言い出したときの琥珀の失望と絶望も、龍也以上に理解した。だからこそ自分だけは何があっても側で琥珀を支えようと考えたはずだ。龍也から「お前は何があってもあいつの側にいてやってくれ」と言われたときは琥珀の脆さを理解しているのに何故龍也自身が側にいてやらないんだともどかしい思いもしただろう。

 九十九は龍也がMUGENを抜けると言い出したとき、一番琥珀のことを思っているのは自分であると思ったかもしれないが、それは龍也がふいに渡してきたバイクの鍵によって打ち砕かれる。自分の治療費のために琥珀が売ったバイクを散々探して買い戻していた龍也。そんなことをされたら、絶対に敵うはずがない。手の中に収まったバイクの鍵の重さに九十九は心底そう思った。そして追い打ちをかけるように九十九には絶対に向けない、龍也と写る写真と同じ笑顔で駆け寄ってくる琥珀。そのときの琥珀の表情を焼き付けたまま、九十九の瞼は閉ざされた。

 

 親友を失い、同じように大切な弟分のような存在も失うかもしれないという状況は琥珀の精神を崩壊させるには十分すぎた。自分には誰も守れない、仲間を持つような資格もない、そんな思いから琥珀はMUGENを解散し一人になる道を選んだ。もう自分のせいで誰かを不幸にしたくなかった。

 そんな極限の状況だったからこそ、李の言葉に浮かされて琥珀はあんな無茶な行動に出てしまったのだろう。そしてそんなドタバタした状況でどさくさに紛れるように目覚めた九十九は結構な長期間眠っていたにも関わらずリハビリを行う描写など一切なしに、初登場で達磨の右京の腕をへし折るというバケモノのような回復力を見せつける。九十九の辞書にブランクの文字はない。どうやら九十九は琥珀から詳細を聞かされていないようなので全くの盲目状態で琥珀に連れ添っていることになる。答えてやれMaria(琥珀)。

 最後の舞台、琥珀は九十九に殴り掛かる。「もう俺の邪魔するな」と言う琥珀は、最後は結果がどうであれ九十九を巻き込まず自分一人で終わらせたかったのかもしれない。病み上がりの九十九(全くそうは見えないが)に一発食らわせ、全て終わるまで気絶しててくれという思いがあったかもしれないが、九十九の強靭な肉体がそれを許さなかった。気絶するどころか拳を振り上げ向かって来る九十九。思わずぶん投げたらガラスを割って結構な高さから落ちてしまう九十九。だがそれでも気絶する気配すら見せない九十九。

 その後殴り合っている二人の間にかつての仲間であるコブラとヤマトが参戦。MUGENは仲間を見捨てねぇ!(二回目)目を覚ませよ琥珀さん!どうしちまったんだよ琥珀さん!と観客全員の気持ちをその拳に乗せて琥珀に殴り掛かる。一発殴る毎に入るのではないかと思うほどの数の回想を繰り返していくうちにかつての光を取り戻す琥珀の瞳。そして龍也の手から九十九、最終的に何故かコブラへ渡ったバイクの鍵がとうとう琥珀の手に渡る。その瞬間、膝から崩れ落ちる琥珀。やはり最後の最後で琥珀の心の扉を開けたのは龍也だった。ちょっと待って、ここまで献身的に連れ添ってきたのに最終的に殴られた九十九の気持ち考えたことある?

 色々と納得出来ない点はあったが、エンドロールで琥珀さんの隣に座り煙草を差し出す九十九と、九十九の手により腰を上げ再び歩き出す琥珀という二人が見れたのは大きかった。最後に九十九が琥珀の後ろを自ら選んで微笑みを浮かべる瞬間などは、思わずスクリーンが涙で霞んでしまう。

 映画で描かれる二人の姿はここまでだ。二人の今後の姿が次の劇場版またはドラマの続編で描かれるのか、それはHIROのみぞ知る。

 

 このような駄文にここまでお付き合い頂きありがとうございます。それでは最後に私が理想とする琥珀と九十九の今後の姿を置いて終えようと思います。